私のパフォーマンス理論 vol.34-筋力トレーニングについて-

陸上競技は筋力トレーニングが全体のトレーニング比率の3-4割になる。もっと多い人もいるぐらいだろう。筋力トレーニングとウエイトトレーニングは厳密に分けられない。私は少なくともわけていなくて、基礎的なウエイトトレーニングは王道のもの(ベンチ、スクワット、デッドリフト、スナッチ、パワーリフト)を行い重さと動きの正確性を追求し、筋力トレーニングはその都度与えたい刺激を狙える動きと負荷を探っていた。変えないウエイトと、臨機応変に変える筋力トレーニングという感じだろうか。

筋力トレーニングにかかわらず、トレーニングの原則は与えた刺激に対し適応しようとする力を応用することだ。重たいものを持てば重たいものが持てるように適応し、長い距離を走れば長い距離が走れるように適応する。筋力トレーニングはある程度狙いたい箇所を狙ってそこに刺激を入れて、適応させることを目的としている。これは裏を返せば、どのような動きをしたいのかどこを鍛えたいのかが明確だからできることでもあって、筋力トレーニングをうまくやるためには、自分の走りでどの部分をどうしたいのかがある程度わかっていなければならない。

なぜただ走るだけでは、競技をやるだけではダメなのか。理由は二つある。一つは競技は複雑な身体を扱うので、例えば地面を踏むという行為一つでも、腹圧を高めて踏むやり方もあれば、ひざ下のふくらはぎを使って足首関節を強く使って踏むというやり方もある。前者が理想だが、後者の力の使い方でも一応踏む行為は成り立つ。そして最初のうちはこの違いが本人にもよくわからない。このように、実際に競技に必要な動きはできていても、内側の筋肉の稼働を見ると本当に動いて欲しい筋肉が稼働していないことがよくある。筋力トレーニングはこの本来必要な筋肉に刺激を入れるために行うというのが一つ目。

もう一つは限界値を引き上げるためだ。人間は最初は重たいものを持ち上げられないが、それは筋力が弱いということだけではなく、本気で力を出すという感覚がわからないからでもある。実際の競技の最中も、よほどうまくなければ力が出しきれていない。中高生が練習で何本も走れるので練習時間が長くなりがちだが、それは若くて回復をするという側面もあるが、そもそも技能レベルが低いので力が出しきれていないという面もある。主な筋肉はウエイトトレーニングでこの力の入れ方を学んだが、意識しにくい細部の筋肉は筋力トレーニングで感覚をつかんでいくほうがやりやすかった。

さて肝心の種目はどのようなものを行なっていたか。陸上の特に短距離で重要な筋肉は、中臀筋、内転筋、腸腰筋群になる。短距離にとって股関節進展は重要で、それである程度スピードが決まると言ってもいい。ジャンプスクワットをワイドスタンスで行うもの、前後に足を開いてこれもジャンプで足を入れ替えるもの、サイドにジャンプをして片足で立つことを繰り返すものは私は多用していた。股関節進展×プライオメトリック的なものを好んで行なった。

それ以外には腹筋背筋にかなりの時間を割いた。腹筋は腹直筋を攻めたくなるが、私の感覚では、腸腰筋群、外腹斜筋、など体感を固定するような筋肉の方が重要だと考えていた。自分の胴体を帯のように巻いているあたりの筋肉を強くししなやかに固定するイメージだった。力の入れ方がわかってくるとほとんどのトレーニングで腹圧をかけることができるようになる。

筋力トレーニングで意識していたことは、早く動かすべき筋肉とそうではない筋肉を分けることだ。私のイメージでは一人の身体の中でも速筋的なものと遅筋的なものがあり、末端に近くなる程速筋的で、体感に近いほど遅筋的だと考えていた。だから手足では早い動きを意識することはあったが、体感部分を稼動する場合はゆっくりと確実に動かすことを考えていた。釣竿を前後に振ると末端は早くしなるが、手元はがっちりホールドされている、あのイメージに近い。

あとはよく使っていたのは、事前に使いたい筋肉に刺激が入るような筋力トレーニングを行い、その後競技の動きをするという練習をよく行なっていた。これの良い点は、走る行為は循環運動なので、右足を踏んでいるときは左足が上がっているなど、とにかく忙しいので意識をすることが最初は難しい。ところが、筋力トレーニングで事前に刺激を入れると、そこをいやがおうにも意識するので、狙ったところを使って走る感覚がつかみやすかった。

最後に後悔していることは、競技人生前半で股関節以外の末端部分は細ければ細いほどいいという考えを持っていたので、大腿四頭筋、特に内側広筋に刺激を入れることを嫌がった。年齢が高くなってくると着地の瞬間にすこし外側広筋優位に働くようになっていった。結果として膝に痛みが出て、徐々にトレーニングに支障をきたすようになっていった。筋力トレーニングは予防の側面もあり、それらは若い間には想像がつかないので、経験のあるトレーナーの助言などを踏まえながらバランスよく鍛えることを勧める。

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