私のパフォーマンス理論 vol.26-敗北後の整理について-

常に試合でいい結果を出し続けることはできない。うまくいかない時や、負けるときもある。敗北したことそのものよりも、敗北後にどう内省し、整理するかがその後の競技人生を決める。

敗北後の整理は、簡単に言えば以下の三段階にまとめられる。

1、振り返りー事実の把握

2、分析ー課題設定

3、対策ー具体的な今後の計画

まず大切なことは敗北して落ち込んでも、落ち込み続けないことだ。よく熟達者になれば敗北して落ち込まなくなると思われるが、実際には少なくとも私もその周辺のアスリートも負ければ毎回落ち込んでいた。ただ、年齢と共に徐々に立ち直るのが早くなっていった。熟達した禅僧と坐禅の初心者では、坐禅の最中に音がなった場合同じように脳波に乱れが出た。ただ、熟達した禅僧の方が乱れた状態から元に戻るのが圧倒的に早かった。そういうものに近いのかもしれない。落ち込むこと自体は大して問題にならないが、敗北を引きずることで判断に歪みが出たりトレーニング効果が減少したりするの問題になる。コツは中途半端に落ち込んでないように見せるのではなく、思いっきり1、2日落ち込んで、元に戻すことだ。感情を抑制するほど長引く。

振り返りは事実の把握が重要だが、人はどうしてもありたい自分や、見せたい自分で歪みが生まれる。周囲に対してはそのように強がってもいいが、自分とコーチに対してだけはさらけ出せるようにならないといけない。ここで取り繕えば、分析も、対策も全て歪んでくる。だからプライドが高く自分と向き合えない選手のトレーニングはいつも最後の本質的なところにたどり着けない。

試合で負けた時は、ネガティブな見方をしがちだが結果が悪かったからといってこれまでやってきたことが間違えだったとは限らない。競技者にはゆらぎがあり、調子は少なからず上下する。ただ雨が降っただけなのになぜ雨が降ったのかを分析しても無駄だ。また新しく何かに取り組めば、馴染むまでに一旦競技力が下がることがある。効果が出るまでに時間差があるからだ。そもそもこれだとはっきりわかるような勝因や敗因など実際にはない。メディアや社会に対しては多少演出してもいいが、それと現実的な取り組みは別だということをしっかりと自分で理解しておかなければならない。少なくともある一定期間(私は3、4ヶ月程度だった)は結果を無視してやり通した方がいい。

2の分析を始める際、一体目標とどの程度の差があったのかということと、それは目標が間違えていたのか、自分のレースが良くなかったのかの二つの観点でみたほうがいい。あまりにも目標との開きが大きいことが続けば、そもそも本人が目標達成を信じていない可能性がある。目標が達成できないことが続けば何か予想や計画に間違えがあったということだから、あまりに繰り返されると何かが根本的におかしいと普通は思う。もし目標との開きが続く場合は、本人やコーチが具体的に目標や計画を立てていないか、そもそも目標達成が重要だと思っていない。この場合、早めに本当に達成可能な目標に修正をかけた方がいい。そうでないと負け癖がつく。

3で大事なのはなんども「なぜそうなのか?それを引き起こしたさらなる原因は何か」を自分に質問し、より根本の課題に迫るようにした方がいい。私を例に出すと、

試合ーハードルでぶつけて転倒

分析ーハードル技術の問題。←本当にそうだろうか

分析ー踏み切る瞬間にハードルと距離が近過ぎた。踏切技術の問題←本当にそうだろうか

分析ー数台前のハードルから歩幅がおかしくなっていた。ハードル間の技術の問題←本当にそうだろうか

分析ー風が強く吹いていて、風に煽られて歩幅が狂っていた←なぜそうなったのか

分析ー緊張のあまり普段であれば認識するはずの風が認識できなかった←本当にそれだけか

分析ー海外の選手のペースが日本人とは違い、最後の直線で後ろから足音が聞こえて焦って歩幅が狂った

分析結果ー風が吹いていることが察知できない、海外の選手のペースが違いそれに振り回された→国外での試合経験数の問題か

という順番に考えた。人によってはもっと違う着地もあるかもしれない。何れにしても大事なことは、頑張りますとか、練習不足ですというようなふわっとした分析で終わらないことだ。ふわっとした分析はふわっとした対策になり、結果として同じ失敗を繰り返す。もちろんスポーツは複雑性が高くシンプルな問題にたどり着けることはほとんどない。けれども、そうとは言い切れないということを自分に許せばいつまでたっても合理的に考えて仮説を立て仮の答えを出す力がつかないので、強制的にでもこれをやった方がいい。

間違えた課題設定をすれば正しく考えても、悪い対策にしかならない。この一生懸命頑張るが最初の課題設定が間違えている選手は多い。特に真面目な選手に多いのが目の前で起きている出来事から課題設定を繰り返すので、思考が複雑に入り組んで本質からずれてしまっていることがよく起きる。こういった思考をする選手は距離を取る練習をしなければならない。距離がなければそもそもや本質が見えない。

3の対策は具体的かつ端的でなければならない。端的でなければ人はすぐ解釈を歪めてずれていくし、具体的でなければいつもの習慣に引きずられて元に戻ってしまうからだ。よくあるのは敗北して課題も見つけ気合いも入ったが、対策としては「気持ちを入れて頑張ります」担っている場合だ。これは何も対策していないに等しい。具体的にするためには、今までと一体何を変えるのか、何が違うのかを書いた方がいい。練習の前に目的があり、目的にも優先順があり、それらが変わったから練習が変わるのだということを強く認識しておかなければならない。

陸上においては問題はレースに全てが現れるが、原因がレースにあるとは限らない。日常にあった問題点がレースで現れただけに過ぎないことも多い。だからが故に日常の全てが原因にもなりうる。しかし、そう考えてしまうと具体的には何をすれば今までと変えられるのかがわからないので、あえて自分なりにこれが課題でこう対策するということを決めなければならない。大事なことはそこに至るまでの思考プロセスで、これらが詳細かつ合理的でなければ、結局なんど負けても学習しない。スポーツにおいての学習とは起きた出来事をどのように捉え直すかであり、それは徹底した内省と、合理的な分析と、具体的かつ端的な対策で決まる。

敗北とは自分を知る絶好の機会でもあり、極めて高い学習機会でもある。特にレースでの敗北からは相当なことが学べる。チャンピオンでい続けることが難しいのは、敗者の方が学ぶ機会が多く動機も高いからだ。ただ、せっかく負けたからには学習効果を最大にしなければならない。その敗北からの学び方の技術が選手の成績を、長期で見ると分けていく。

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